前回から、京都大学構内のレトロ建築を巡っています。
今回は、今出川通を越えて、北部構内へ。
緑豊かな並木道を北に歩くと、
極端に細い瓦屋根を戴いた、横に長い珍しい形状のゲートをくぐります。
これが、1924(大正13)年に竣工した農学部表門。
よく見ると、人が通る部分は尖塔アーチになっています。
その傍らには、門衛所。
外壁に石が張られているのが分かります。
登録有形文化財に指定されているこの建築は、楽友会館も手掛けた森田慶一によるもの。
森田は、過去の様式からの分離を宣言した分離派(セセッション)運動に参加した建築家でした。
表門を抜けてまっすぐ進むと、洒落たバンガロー風の平屋があります。
屋根は、日本瓦に近い渋い色ですが、スパニッシュ瓦葺き。
こちらは、1931(昭和6)年竣工の旧演習林事務室。
建築学科の創設者である武田五一の指導を受けた、大倉三郎の設計になります。
同心円状に弧を描く玄関ポーチの石段を上がると、両サイドに続く深い軒下にベランダ。
長い軒を支える柱には、斜めに補強材がつけられ、それもまた美しいデザインとなっています。
天井には、昭和初期らしいモダニズムの意匠。
シンプルですが、すっきりとした美しさを感じさせてくれます。
京都大学の構内に数あるレトロ建築の中では、少し異色な建築のように思えました。
北部構内から少し東へ歩くと、
閑静な住宅街の中に、美しいスパニッシュ・ロマネスク様式の洋館があります。
1930(昭和5)年竣工の京都大学人文科学研究所です。
あれ、以前には左の門柱上にあったはずの石の装飾が、無くなっている。
片方の門柱飾りが無くなったので、左右の門柱の高さが違ってしまっていますね。
この建築の設計は、京大建築学科の初代教授でもあった武田五一と、まだ院生であった東畑謙三。
細部にこだわった繊細なデザインを見ると、東畑の色が強く出ているのでしょう。
他の武田の作品とは、かなりテイストが違うように見えます。
テラコッタで優美に装飾された、玄関ポーチ。
窓にもエントランスにも、アールが多用されています。
アーチの向こうには、円い照明。
ちょっと異国情緒が漂う、テラスの手摺り。
スペインの僧院をイメージした建築のようですが、アジアの香りも漂っているのかも知れません。
その奥には、丸窓が並びます。
花をモチーフにした、品位を感じさせる意匠。
美しくデザインされた高窓。
壁面上部に日時計があるのも面白い。
これも、若き日の東畑が楽しんだ遊びなのでしょうか。
東側にある平屋部分は、回廊のようにパティオとよばれる中庭を囲んでいるらしい。
残念ながら、中に入って見ることはできませんでした。
でも、どの面から見ても、やっぱり魅力的な作品です。
こんなに優美な建築が、国立大学の研究所であるとは驚きですね。
今出川通に戻ると、「深夜喫茶しんしんしん」。
深夜だけ営業する喫茶店だなんて、学生の街らしい。
店名は、「はっぴいえんど」の曲名からとったのでしょう。
少し歩いてお腹がすいたので、近くに流れる琵琶湖疎水の分線沿いにあるラーメン屋さんへ。
訪れたのは、戦後すぐに開店し、創業80年近い「ますたに北白川本店」。
硝子越しに、職人さんの背中が見える風景が、とても良い感じ。
カウンターに案内され、迷いなくラーメン大を注文。
鳥ガラベースの背油醤油ラーメンですが、手を抜かず丁寧にとったスープがうまい。
最近でこそ、京都の背油チャッチャ系の元祖と言われていますが、このお店は流行り廃りとは関係なくずっとこの味。
のれん分けによって職人さんが変わっても、きちんと技術が受け継がれていくのが素晴らしい。
受け継がれていくものが多い、学生の街である京都大学周辺。
来ると、いつも心がほっとするエリアです。
京都大学構内での建築探訪は、もう少し続けてみようと思います。