滋賀県の大津湖岸なぎさ公園に来ました。
琵琶湖に面して、大きな「石場の常夜燈」があります。
1845(弘化2)年に建てられ、高さは8.4m。
近くから移設されてはいますが、琵琶湖を渡る舟の目印に使われていたものです。
常夜燈の基壇に刻まれた当時の船仲間の名前には、大阪や、阿州(徳島)、尾州(愛知)などとあります。
ここが、かつて水上交通の要衝であったことがわかります。
少し南側には、旧東海道と宿場町。
琵琶湖の水運で運ばれた物資は、東海道を通り、京都に運びこまれていました。
こちらは、格子や虫籠窓のある北川家住宅主屋。
大津に残る、最大規模級の町屋です。
古い町家の前に、石碑がありました。
「此附近露國皇太子遭難之地」とあります。
のちに最後のロシア皇帝となるニコライ皇太子が、日本の巡査に切り付けられた大津事件の現場のようです。
旧東海道沿いにある、義仲寺。
創建は不詳ですが、木曾義仲の敗死後に巴御前が墓所の近くに草庵を結んだことに始まるようですから、平安末頃なのかも知れません。
その後、荒廃と再興をくりかえしています。
源氏の将軍と俳人・松尾芭蕉の墓が並んでいる、面白い寺院です。
旧東海道の一筋浜側には、アーケード商店街もあります。
丸屋町・菱屋町・長等の3つの商店街をあわせた、ナカマチ商店街。
右手には、いかにも歴史を感じさせるお店。
漬物や湖魚の佃煮をあつかう、「八百与」さんです。
創業は、1850(嘉永3)年。
宮内庁御用達と書かれた、立派な木製の看板です。
御主人の話では、明治に来日した東洋美術史家・フェロノサが、三井寺で岡倉天心と食事をしたさい、精進料理を提供したそうです。
フェロノサが、日本に滞在した間で一番美味しかったと言ってくれていることが記録に残っており、嬉しいとのことでした。
宮内庁からの手紙類も、見せていただきました。
商店街にある駐車場の奥には、大津城外堀の石垣も残ります。
近くには、ひっそりと、こんな郷愁を誘うお店もありました。
いたるところで歴史を感じさせてくれる大津の街ですが、近代建築も残ります。
まずは、1939(昭和14)年の竣工の滋賀県庁。
設計は、早稲田大学大隈記念講堂などを手がけた佐藤功一と、朝鮮総督府庁舎などの國枝博。
聳え立つ塔屋。
正面に控えめな装飾はありますが、全体としてシンプルに感じます。
戦争に向かう時代的な背景も、関係しているのかも知れません。
こちらは、浜大津にある旧大津公会堂。
1934(昭和9)年竣工で、設計は大津市土木課。
名のある建築家の設計ではないようですが、なかなか良い感じではないですか。
3階のアーチ窓と大小の丸窓が、印象的に配置されています。
丸窓は、アール・デコ調。
外壁は、細い筋のはいったスクラッチタイルで覆われています。
正面のエントランス。
正面上部の意匠。
落ち着いた内部の雰囲気。
階段手すりの上部や丸い装飾には、白い石材が用いられています。
教会もあります。
青い瓦屋根で、和調のカトリック大津教会。
膳所駅近くにあり、1940(昭和15)年竣工。
日本建築風にしたのは、建てたバーン司祭の考えからきているようです。
切妻屋根の上に、十字架のついた2層の塔屋。
アールのついた窓は、洋風でした。
次は、東海道に面し、古い町家と並ぶ大津聖マリア教会。
外観はきれいに手直しされているようですが、1932(昭和7)年の竣工です。
一部が反射して見えにくいですが、きれいなステンドグラスがありました。
1928(昭和3)年に建てられた、W.M.ヴォーリズ設計の教会です。
ヴォーリズは、キリスト教伝道のために来日したアメリカ人ですが、滋賀県近江八幡を拠点に活動し、非常に多くの魅力的な建築を手がけました。
エントランス上部の装飾。
併設されている、愛光幼稚園。
大津には、このほかにもヴォーリズ建築があります。
音羽台にある、宮本家住宅主屋。
1930(昭和5)年竣工のスパニッシュ瓦葺で、2種類の煙突が立っています。
ヴォーリズ建築では、暖炉は人が暖かく集う場として欠かせません。
こちらは、三井寺町にある旧ニップ邸。
1925(大正14)年に建てられています。
先に見た日本キリスト教団大津教会の、ニップ宣教師の住宅でした。
アールがついた小窓と煙突が、ヴォーリズらしいですね。
大津では、そのほかの場所でも近代建築に行きあたります。
浜大津近くにある、1937(昭和12)年に建てられた石田歯科医院。
スパニッシュ瓦葺で、小さなバルコニーもある、明るい外観。
東面の壁には、ステンドグラスがあります。
こちらは、中央にある尾松歯科医院。
1937(昭和9)年竣工。
旧東海道沿いにある、竣工年不詳の島林書店。
小さな千鳥破風のある瓦屋根に、アーチ窓。
不思議な和洋折衷に、思わず目がとまる建築です。
せっかく大津に来たので、少し北の柳が崎まで足をのばします。
鉄筋コンクリート造ですが桃山風破風造という、和風の近代建築があります。
1934(昭和9)年竣工の旧琵琶湖ホテル。
今は、びわこ大津館とよばれる文化施設として、利用されています。
桃山風の扉に、ちょっと洋風の意匠。
内部は、洋風にまとめられています。
2階テラスからは、青い琵琶湖を展望。
テラスの床一面に張られている透水性を持たないクリンカータイルは、生駒ビルヂングや京都府庁で使われているものに似ています。
テラスの腰壁のスクラッチタイル。
ここでは、細い筋が横に入っています。
エントランス内部の床には、2色のタイルが矢筈張り。
おっ、壁には美しい窯変タイル。
この一枚一枚異なる風合いって、京都の泰山タイルっぽいような気もするのですが。
トイレ壁面のタイル。
とてもタイルが充実した建築でした。
外に出て、湖側から見ました。
外観は和調なのに、洋風の大きな煙突が見えて面白い。
大津は、大きな琵琶湖に面していて、空が広い街です。
琵琶湖の水運と旧東海道が接続する地点として、かつては大変栄えました。
今もいたるところで、様々な時代の歴史を感じることができる街だったと思います。
魅力的な近代建築にも出会うことができ、良い街歩きができました。