こんにちは、のら印です。
京都に現存している大好きなヴォーリズの建築を、エリア別、年代順に整理しておこうと思います。
その1回目として、商業地区である中京区・下京区エリアをとりあげます。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズは、1905(明治38)年に来日したアメリカ人です。
1964(昭和39)年に83歳で永眠するまでに、1000棟を超える建築設計をおこなっています。
驚くべきことは、数々の名建築を残したヴォーリズですが、建築家としてはアマチュアからスタートしているということです。
もともと建築家を志望してはいましたが、大学の卒業学科は哲学科です。
彼はキリスト教を伝道するために日本に来た人であり、その目的に沿って、使う人が幸せになる建築をたくさん設計したようです。
また同様に、塗り薬「メンターム」で知られる近江兄弟社を設立したり、学校や病院を開設したり、讃美歌の作詞作曲をしたりもしています。
多才で、エネルギーにあふれる不思議な人ですね。
ヴォーリズは、1908(明治41)年に先代の京都YMCA会館を建築するにあたって工事監督をしており、このタイミングで建築設計監督事務所を開設しています。
終生、近江八幡を拠点として活動したヴォーリズですが、建築家としての活動の当初から、京都とは深いつながりがあったようです。
【京都御幸町教会(旧日本メソジスト京都中央教会)】
このエリアに現存するヴォーリズ建築で、もっとも古いと思われる中京区の日本キリスト教団京都御幸町教会です。
1913(大正2)年に、もともとは日本メソジスト京都中央教会として建てられました。
ヴォーリズが事務所を構えてから、5年後のことです。
煉瓦造ですが、すっきりとした切妻屋根です。
京都の町になじませようとしたのでしょうか。
格子の入ったガラス戸も、和洋折衷のようです。
側面には、尖頭アーチの窓が並びます。
ゴシック様式を取り入れていますが、華美さはありません。
外壁に、バットレスとよばれる控壁が設けられています。
角には、「AD1913」の定礎。
礼拝堂内部です。
天井は、三角形で構成された強度のある木造のトラス構造。
白いしっくいの壁と、ふんだんに使われた木材で、温かみが感じられます。
礼拝堂と隣室との仕切りが引上げ式になっていて、大きな行事のときには一つの部屋として使えます。
こんな実用に合わせた柔軟な発想も、ヴォーリズならではのものでしょう。
階段の手すりも、優しさと温もりを感じさせます。
【東華菜館(旧矢尾政)】
にぎやかなこの辺りでも一際目立つ、塔屋のある5階建ての建築。
1926(大正15)年に、もともとは西洋料理店・矢尾政のビアレストランとして建てられています。
ヴォーリズ建築は教会関係・学校・住宅が中心で、商業施設はもともと少ないのですが、その中で唯一のレストラン建築と言われています。
スパニッシュ・バロック様式で、華やかなテラコッタの装飾が多用されているのも、ヴォーリズ建築としては異色なのかもしれません。
遊び心の豊かなヴォーリズですから、一度はこのような建築を建ててみたかったのかも。
【大丸京都店】
1928(昭和3)年にヴォーリズが建てた店舗は、すでに全面改修されており、その痕跡は一部に保存されるだけとなっています。
京都店より6年早く建てられ、改修された現在もヴォーリズの香りが漂う大阪の心斎橋店とは、少し違っているのかもしれません。
ヴォーリズの名残をとどめる東側入口から入ります。
入ってすぐ左手に、地下に降りる階段があります。
天井にも、左右の壁にも様々な八芒星(はちぼうせい)が。
イエス・キリストの誕生を知らせたベツレヘムの星なのでしょう。
階段入口上部の、八芒星に合わせてデザインされたギザギザの部分が、照明になっているのも美しい。
奥の壁にも、また違うデザインの八芒星。
かつて2階のバルコニーに置かれていた、飾灯具も残されていました。
もうかつての外観をみることはできませんが、一部でもこのように保存されているのは嬉しいことです。
【大丸ヴィラ(旧下村邸)】
中京区の烏丸通丸太町にある大丸ヴィラです。
1932(昭和7)年に、大丸創業家である下村家の居宅として建てられています。
11代店主の下村正太郎氏が、イギリスで見たチューダー様式で自邸を設計するよう、大丸心斎橋店や京都店も手がけたヴォーリズに依頼したようです。
下村氏は、チューダーという様式名をもじり、この家を「中道軒(ちゅうどうけん)」と名付けたそうです。
中世ヨーロッパに多い、木材の柱をあえて外に見せるハーフティンバーの構造が特徴的な建築です。
通常非公開のため、道路側から写真を撮りましたが、門柱や門扉も美しい。
ヴォーリズ建築でおなじみの煙突も、ここでは少し形状が異なるようです。
写真の煙突は、ねじりん棒のようなデザインのものが2本並んでいます。
一度、内部も見せていただきたい建築でした。
【救世軍京都小隊】
下京区の富小路通四条下るにある、救世軍京都小隊という教会です。
1936(昭和11)年の建築です。
正面には、丸みをおびた尖頭アーチのデザインが用いられています。
内部からは、玄関上部の色ガラスが、外の光に照らされて美しく見えます。
礼拝堂内部。
天井が格子状にデザインされており、少し和調。
讃美歌や演奏が美しく聞こえるよう、天井の両角を斜めに設計しているようです。
講壇部分のデザインも、シンプルだけれど面白い。
ということで、今回は中京区・下京区を見ました。
このエリアは商業地区ですが、豪華で美しい商業施設から温かみがあり居心地の良い教会建築まで、ヴォーリズ建築の幅の広さが感じられるように思います。
次回は、上京区・北区のエリアを予定しています。