のら印BLOG

野良猫のように街を探索し、楽しさを発見するブログ

戦災をまぬかれたモダン建築パラダイス・大阪中之島

京阪電車中之島線で、大阪市北区にある渡辺橋駅に来ました。

堂島川土佐堀川にはさまれた中之島は、大阪市役所や中央公会堂などのある大阪市の中枢であるとともに、水の都・大阪を代表する美しい中州です。

かつて戦災によって焼野原となった大阪ですが、中之島は東側半分以上が空襲をまぬかれたため、美しい建築が保存されている地区でもあります。

 

渡辺橋駅を出て西へ行くと、すぐに出会うのがダイビル本館。

もともとは、大阪商船(現商船三井)の本社ビルでした。

外壁をスクラッチレンガで覆われているため、一見地味にも見えますが、中之島のシンボルとなってきたビルです。

細部に目をやると、仕事の繊細さがわかります。

竣工は、1925(大正14)年。

この頃、東京は関東大震災後であり、大阪が「大大阪」と呼ばれて日本一の大都市でした。

設計監督が商船三井ビルディングや綿業会館の渡辺節、製図主任が都ホテル迎賓館赤坂離宮本館の村野東吾、構造計算が東京タワーを手掛けた内藤多仲と、大建築家たちの力を結集して建てられています。

エントランスに並ぶ、ユニークで濃密な石の彫刻。

このビルは、2013(平成25)年に地上22階のビルに建て替えられましたが、低層部は、一度手作業で解体され、ていねいに修復し復元されているようです。

外壁北面、西面のスクラッチレンガも、95%以上が旧ビルの煉瓦を再利用しているとのことです。

羊の顔がある石柱があれば、

獅子の顔の石柱も。

エントランスのアーチ上には、大國貞蔵作の「鷲と少女の像」も保存されています。

見事なエントランスホールの吹き抜け。

床タイルや2階の手すりは、昔のまま。

石膏でできていた天井部分は、型を取って再現されています。

上階からのシュートがついた私設郵便函も、健在。

現役で活躍しているようです。

閉まっていましたが、1階の西隅には「ダイビルサロン1923」。

硝子越しにのぞくと、歴史を感じさせる装飾が散りばめられ、入ってみたい部屋でした。

 

ダイビル本館を出て、南の土佐堀川に出ます。

白子島町通に面して、植え込みの中に道標がありました。

「右ハ 梅田十そう 大仁尼がさ起」、「左リ 安治川 やぐら迄十七丁程」とあるようです。

右へ行くと、梅田、十三、梅田の北方にあった大仁(だいに)村、尼崎。

左へ行くと、安治川のやぐらまで2km弱、ということでしょうか。

寛政11(1799)年と、結構古い道標でした。

 

土佐堀川沿いに、東へ進みます。

歩行者専用の錦橋。

1931(昭和6)年に、可動堰として建設されています。

もう少し東へ行くと、

端正な淀屋橋

江戸時代の豪商・淀屋が、米市の利便のために、最初の橋を架けたようです。

現在の橋は、1935(昭和10)年のもの。

コンクリート橋ですが、重要文化財に指定されています。

橋上には、御堂筋が通っています。

 

淀屋橋北詰西側には、「駅逓司大阪郵便役所跡」の石碑。

1871(明治4)年に郵便制度が設けられたさい、ここに郵便役所が置かれています。

大阪はもちろん、日本の郵便発祥地のひとつですね。

 

その背後に、重々しく建っているのが日本銀行大阪支店旧館。

花崗岩の外壁に銅製の屋根。

屋根の中央には、王冠を思わせる形状のドーム。

南側の側面。

1903(明治36)年竣工で、石および煉瓦造です。

設計者は、東京の本店と同じ、巨匠・辰野金吾

ベルギー国立銀行などをモデルにしたとのこと。

エントランスの石柱は、角柱と円柱が二本ずつ左右に並びます。

柱頭飾りは、重厚なイオニア式でした。

 

日本銀行大阪支店旧館前の道路は、御堂筋。

北側の堂島川には、淀屋橋とよく似た大江橋が架かっています。

1935(昭和10)年の完成は、土佐堀川淀屋橋と同じ。

こちらも重要文化財に指定されています。

奥には、1929(昭和4)年に完成した水晶橋の美しいアーチが見えます。

 

さらに東へ進み、大阪市役所を過ぎると、旧大阪図書館。

ギリシアの神殿に来たかのような、錯覚にとらわれます。

現在は、大阪府中之島図書館。

とても公共の図書館とは思えない、壮麗さです。

それもそのはず、この図書館は、商都大阪に文化的施設をと考えた住友家によって、建築・寄贈されたものです。

設計は、住友家に招かれた、帝国大学工科大学造家学科卒の野口孫市。

竣工は、1904(明治37)年でした。

正面に並ぶ、太いコリント式の円柱。

三角形のペディメントの彫刻も、まさに精緻。

内部に入ると、円窓型ステンドグラスのあるドームに、圧倒されます。

木製の重厚な階段も、美しい。

3階も、細やかに手が入っています。

扇窓のある記念室。

外に出て東側背面から見ると、正面からは見えなかったドームの外観が確認できました。

 

旧大阪図書館の東隣りは、大阪市中央公会堂

「北浜の風雲児」と呼ばれた株式仲買人・岩本栄之助が私財を投じ、1918(大正7)年に竣工しています。

南の土佐堀川側から見ると、赤煉瓦に白い石の外壁。

青銅の屋根には、いくつもの塔屋と、小さく突き出したドーマー窓。

とても美しく、落ち着いた雰囲気です。

東のエントランスにまわると、二つの塔屋にはさまれた大胆なアーチが印象的。

コンペで選ばれた設計原案は、岡田信一郎

建築顧問は、東京駅も設計した巨匠・辰野金吾

いかにも辰野式とわかる、赤煉瓦に白い石のラインが目に入ります。

南側の壁面。

北側から見ました。
見る方向によって、印象が変わるのが面白い。

内部の階段。

手すりのデザインも凝っていました。

 

淀屋橋に戻り、中央公会堂を遠くに望みます。

左のビルは、大阪市役所。

右手には、土佐堀川に浮かぶ季節料理「かき広」の、屋根と看板が見えます。

水上の料理屋さん。

いかにも水の都・大阪らしいですね。

 

数が多いわけではありませんが、見る者の心を満たしてくれる名建築を、水と緑が美しい小さな中州の中で堪能することができました。

濃厚な絶品シチューを、お腹一杯いただいたような感覚でしょうか。

戦災をまぬかれてくれたモダン建築パラダイスに、感謝です。