北加賀屋は、大阪市住之江区にあり、かつては造船業で栄えた町です。
駅前の歩道では、さっそく黄色く円らな瞳のあひるマンホール発見。
これは珍しい。
大阪市のマンホールは、通常、あひるの部分に大阪城が描かれているんですがね。
この可愛いあひる君は、何者なんだろう。
駅からは、大阪湾に注いでいる木津川河口方面に歩きます。
工場街を抜けると、古い大きな建物のコンクリート壁に描かれた、楽し気な壁画。
人も、不思議な生き物たちも、仲良く手をつないでいます。
建物のゲートに行きあたりました。
錆びが目立つ建物の屋上に、「名村船渠」の金網看板。
「船渠」って聞きなれない言葉ですが、造船所のドックのことですよね。
ここが、名村造船所跡のようです。
ゲートの左側にも、タッチの異なる壁画が続きます。
いたいた、さっきのあひる君が、横を向いています。
ゲートの水色の重そうな鉄扉には、「木津左6号」の文字。
壁画が描かれていたコンクリートの壁は、ただの塀ではなく、木津川に面して設けられた防潮堤のようです。
高潮や津波が来たときには、この重そうな鉄扉が閉められるのでしょう。
警備員室があったので、中に入っても良いか尋ねてみました。
一度は立入りを断られましたが、少し間をおいて「実は今日はこの後に見学会が予定されていますが、参加されますか」とのこと。
さっそく、会の主催者に連絡をとってくださいました。
なんとラッキーなことでしょう。
黄色いあひる君が、幸運をもたらしてくれたのでしょうか。
警備員室の窓の横には、水色の水位を表すシールが。
これは、2018年に猛威を振るった台風21号のさいの、防潮堤内の水位を示しているそうです。
大阪市教育委員会によると、名村造船所船渠跡は、大阪市顕彰史跡になっているそうです。
工場配置図を見ると、船渠(ドック)は2つ、船台が2つあったようです。
ドックの横にも、色彩あふれるアートがありました。
ここから、見学会に参加させてもらいます。
名村造船所跡は、クリエイティブセンター大阪として、舞台公演、音楽ライブ、映像上映など、さまざまに活用されているとのこと。
4階から見た、壱号船渠。
こちらは、弐号船渠。
〔『北加賀屋レポート』近代化産業遺産(名村造船所大阪工場跡地)を未来に活かす地域活性化実行委員会発行より〕
見学会でいただいた資料には、この弐号船渠に浮かぶ、巨大な黄色いあひるの写真がありました。
高さは9.5mもある、ラバーダック。
オランダのアーティスト、F・ホフマンの作品だそうです。
このあひる君、君がどうやら北加賀屋のヌシだなあ。
4階にある、原寸大の船の図面を描くための原図室。
大きな図面が引けるように、柱はありません。
床には、引いた図面の跡が残ります。
木津川の向こうには、戦前から続く中山製鋼所の高炉。
資料室に残された、往時の写真。
ドックも船台も木津川も、船で満杯。
たくさんの労働者が、とてつもなく暑い過酷な環境の中で、汗を流していたのでしょう。
ドック横に並ぶ椰子の木。
これは、社長の趣味だったようですね。
椰子の木横の建物は、現在大阪城ホールなどのリハーサルスタジオとして活用されています。
楽屋には、所狭しとアーティストのサインが並びます。
これは、忌野清志郎さんのもの。
ドックの先端部横に残された、係船柱と餅つき機。
進水式では、大量の餅を撒いて祝ったことでしょう。
見どころの多かった造船所跡を出ます。
向かいのマンションの前には、これまた巨大な鉄のオオサンショウウオ。
その隣には、かつて造船所の労働者が暮らしていた「白馬荘」、「乗鞍荘」、「穂高荘」が並びます。
今は、初期費用は一切なしで、家賃は18800円から。
大阪市内とは思えない、破格の物件ですね。
この街では、行く先々にウォールアート。
チョコレートのお菓子でも、たこ焼きでもありません。
未来の植物をコンセプトにした作品です。
こちらは、造船労働者が暮らしていた文化住宅を改造した、「千鳥文化」。
中央は、ガラス張りで開放的な「千鳥文化食堂」。
木の温もりを生かした内装。
カップやコースターも、ちょっとしたアート。
こちらの仕掛け人は、北加賀屋に多くの土地を所有する「千島土地(株)」。
一般財団法人おおさか創造千島財団として、アートな街づくりを支援されているようです。
発行されている「KITAKAGAYA カオスマップ」。
北加賀屋の街歩きにとても便利で、千鳥文化に置いてあります。
千鳥文化裏側にある「みんなのうえん」。
自転車のホイールで作られたゲートが楽しい。
また、いたいた、北加賀屋のヌシくん。
こちらにも食べかけのドーナツのような壁画。
マンションの壁で、鏡を覗き込む少女。
賑やかな民家の壁。
あーっ、モナリザやウォーホールのマリリンに落書きしちゃ駄目だぞー。
植物に覆われた、「Air Osaka hostel」。
古い旅館を改装したようで、残された「旅館」のネオン看板が良いですね。
この街では、アートが生活の一部になっているようです。
隅々まで目を離すことができない、なんとも楽しい街づくりの工夫。
北加賀屋は、町猫も思いっきりくつろげる、居心地の良い街でした。