のら印BLOG

野良猫のように街を探索し、楽しさを発見するブログ

中世の灯りを支配した小さな町と山荘美術館・京都大山崎

大阪府との境に近い京都府大山崎町に来ました。

こじんまりとしたJR山崎駅

後方の山は、天王山になります。

駅前には、「天下分け目の天王山 山崎合戦のまち」との碑もありました。

少し西側には、「山崎駅跡」の説明版と発掘調査跡も。

この「山崎駅」は、JRの駅のことではなく、古代の官道におかれ馬や働き手が用意された施設のこと。

古代の人馬の駅と、現在の鉄道の駅が、ほぼ同じ場所にあるようです。

さらに少しだけ西へ行くと、「従是東山城國」の道標があります。

これより東は山城の国。

ここまでが京都府です。

道標の西側は、大阪府島本町

当時の、摂津国になります。

大阪側にある最初の建物が、関大明神社。

ここに関所が置かれていたようです。

ちなみに、前の道は西国街道

国境を流れる水路は、今も古い石組みに守られていました。

少し南の京都府側には、「右 西国道」の標識。

元禄5年に建てられています。

道標の斜め向かいに、離宮八幡宮の惣門があります。

社伝では、859(貞観元)年の創建。

江戸時代前期には、「西の日光」とよばれるほどに繁栄したようですが、幕末の騒乱でこの惣門と東門を残して焼失しています。

神社内には、「河陽宮(かやのみや)故址」の碑。

この地は、もともと嵯峨天皇の河陽離宮の跡地なので、離宮八幡宮とよばれているようです。

すぐ横に、不思議な像があります。

髭を生やしたおじさんが、大切そうに壺を運んでいるのでしょうか。

油祖像です。

隣には、「本邦精油発祥地」の碑。

電気もガスもなかった中世日本では、灯油は荏胡麻(えごま)から絞られました。

この絞り器を発明したのが離宮八幡宮の神官であり、中世になるとこの神社の油神人(あぶらじにん)たちに、朝廷や幕府から荏胡麻油の製造・販売の独占権が与えらえています。

その名をとどろかせた大山崎の油座として、中世日本の灯火を支配したわけですね。

たくさん奉納されている石灯籠にも、荏胡麻の灯がともっていたのでしょう。

この石柱には、「従是西 八幡宮神領守護不入之所」とあります。

室町時代守護大名でも、八幡宮神領には入ることさえ許さない、強い力を持っていたということですね。

豊臣秀吉明智光秀が対決した山崎の戦いの勝敗にも、この油座の経済力が影響したとも言われているようです。

1879(明治12)年に再建された本殿。

北西部には、謎の大石が整然と並んでいます。

神社内にあった、今と江戸時代の境内を比較した図を参照してみます。

謎の大石たちは、今はない多宝塔の礎石のようです。

東門から出ました。

 

ぐるっと回ってきたので、駅前はすぐそこです。

駅前の東側には、妙喜庵。

前に立つ碑には、「宗鑑隠棲地 豊太閤陣営 利休茗席 妙喜庵」とあります。

連歌師山崎宗鑑が隠れ住み、豊臣秀吉山崎の戦いのさいに用いた茶室であって、千利休が作った茶室として唯一残る待庵がありますよ、という意味なのでしょう。

玄関ですが、1か月前までの予約が必要なため、待庵の見学はできませんでした。

気を取り直して、踏切を渡り、大山崎山荘美術館に向かいます。

線路を越えると、すぐに天王山登り口。

横には、山崎宗鑑の冷泉庵跡の碑。

上り坂が続きますが、「いざ天王山!」と、マンホールも応援してくれます。

美術館への来客を最初に迎えるトンネル。

ろうかん洞(ろう・かんは難しい字)とよばれるようです。

裏側の扁額には、「天王山悠遊」とありました。

途中、「右 天保山」の道標。

ここは天王山。

天保山は大阪港にある日本一低い山では??

職員の方にも尋ねましたが、やはり謎のようでした。

間口が広く、門扉のないゆったりとした門が出迎えてくれます。

緑の奥に、山荘美術館はありました。

本館は、チューダー様式を取り入れ、木の柱をあえて外に見せるハーフティンバー工法。

すらっと伸びた高い煙突が印象的。

ニッカウヰスキーの創業にも参画した実業家・加賀正太郎が、自ら庭園や家具、調度品も含めて設計した山荘です。

竣工は1932(昭和7)年。

1996(平成8)年から、創業者が加賀と交友関係にあったアサヒビールにより、美術館として運営されています。

切妻屋根を重ねたエントランス。

木がふんだんに使われていますが、各所に削り跡をあえて残す工法が用いられています。

内部には、「民藝」運動に関わった作家らの素晴らしい展示作品はもちろん、美しい細工がほどこされた階段や壁、照明、タイル、作り付けの家具等々がふんだんにありましたが、撮影は禁止でした。

本館から安藤忠雄が設計した山手館への、洋風の渡り廊下。

左手には、睡蓮の池。

この美術館は、モネの「睡蓮」も数点所蔵しています。

山手館では、舩木倭帆のガラス作品が特別展示されていました。

この場所と、テラスのみ撮影OK。

テラス席から、淀川対岸の石清水八幡宮方面を望みます。

テラス部分の外壁。

クラッチレンガが、きれいにデザインされています。

テラスに置かれた、バーナード・リーチ(手前)と濱田庄司(奥)の組タイル。

どちらも大好きですね。

広い庭園も美しい。

見上げると、美術館は森の中。

 

天王山と淀川にはさまれた、大山崎の町。

狭いエリアの中に、特徴ある町の歴史と、個性あふれる美術館。

あじわい深い一日になりました。